シエナの広場(伊太利亜旅行 其ノ三十二)

ローマからシエナへ向かった。バスでおよそ四時間、二百四十キロの行程だ。
シエナの中心部にある広場(カンポ)はイタリアでももっとも美しい広場といわれている。プブリコ宮殿のマンジャの塔やルネサンス様式のガイアの噴水が見られる。カンポはもともとは野原という意味だそうだが、十四世紀にれんがが敷かれて現在の姿になった。
毎年八月十六日にここで「パリオ」という競馬が催され十七頭が競う。市の十七の区域がこの日の勝利のために一年をかけて準備する。ふだんは静かなシエナの町がこの日だけは今年の勝利はわが区域だと沸きに沸くという。
パリオの日のシエナに滞在したときの体験を須賀敦子は『遠い朝の本たち』の一章「シエナの坂道」に「あちこちの街角で出会う旗をかざした若者の群れがめずらしくて、色の洪水に流されたような一日の時間はあっというまに過ぎた」と書いている。