ミュージカル映画ベストテン (市俄古と紐育 其ノ八)

ミュージカル映画のベストテンを選んで年代順に並べるとさいしょに「四十二番街」(1933年)が、そして、いまのところしんがりには「シカゴ」(2002年)がくるなんて書いたものだから、そうなるとわがミュージカル映画ベストテンをそのままにしておくわけにはゆかなくなった。それにこういうときに思い切って選んでおかないといつのことになるやらわからない。ブロードウエイを訪れた機会につれづれの旅行記の番外篇として勇気を奮ってチャレンジしてみた。

まずはミュージカル映画をジャンルとして確立させた古典的名作として「四十二番街」を挙げる。
つづいて「ウエストサイド物語」。あらためて言うまでもないが、六十年代初頭のニューヨークの社会を背景にイタリア系とプエルトリコ系の二つの非行少年グループの抗争とそこで犠牲となった若い男女の恋と死を描いたこの傑作は以後ミュージカルの世界を拡げ、作劇、音楽、ダンスに大きな影響をもたらした。
いっぽうでこの名作はミュージカルのエンターテインメント性を損なうきっかけとなったのではないかとの批判もあった。その点で「シカゴ」は「ウエストサイド物語」以後の流れを踏まえるとともにエンターテインメント性をふんだんに具えたルネサンス的作品として輝く。
以上の三作はいずれもエポックメイキングとなった作品だが、わたしのばあいミュージカル映画は多くの優れたエンターテイナーとともにある。そこで今回はベストテンのなかに必ずいてほしいスターを念頭において作品を選んでみた。たとえば忘れられない名場面といった尺度で選ぶと「ビギン・ザ・ビギン」のダンスシーンが含まれる「踊るニューヨーク」を入れなければならないので以下の話は違ってくるのだが今回はあくまで上の趣旨で選んでみた。
かくしてフレッド・アステアジーン・ケリージンジャー・ロジャースシド・チャリシー、ジュリー・ガーランド、ジュリー・アンドリュースミッツィー・ゲイナーを不可欠の人としたが、ビング・クロスビーフランク・シナトラ、ジミー・デュランテ、エレノア・パウエルベティ・ハットンマリリン・モンローライザ・ミネリといった人たちを思うと後ろ髪を引かれる思いがする。ベストテンを選ぶのを躊躇するのはこういう気持になるのを避けたいからなんですね。でもここまで来れば愚痴を言ってはいられない。
まずはフレッド・アステアシド・チャリシーは「バンドワゴン」で決まり。もうひとつの共演作「絹の靴下」も入れたいがとりあえず保留としてジュディ・ガーランドに行くと「オズの魔法使い」か「イースター・パレード」となる。これはむつかしいですね。ともに名曲あり、前者のレイ・ボルジャーや後者のアン・ミラーのように素晴らしい助演陣にも恵まれて甲乙つけがたいけれど、アステアに惹かれて、ここは「イースター・パレード」で行きましょう。

アステア偏重は避けたいけれど、ジンジャー・ロジャースとのコンビによる黄金の作品群からはいくつか選びたいところを心を鬼にして「トップハット」と「有頂天時代」に決める。
ここまでで七作。ようやくジーン・ケリーの登場だがアステアの作品群を思うと「雨に唄えば」だけではものたりない。そこで「踊る大紐育」と「魅惑の巴里」を候補としたが、ミッツィ・ゲイナーをベストテン不可欠の人とした関係から後者を選択する。本作でジーン・ケリーと共演したミッツィ・ゲイナー、 ケイ・ケンドール、タイナ・エルグいずれも華やかで美しく忘れがたい。
残る一つはジュリー・アンドリュース出演作となる。もちろん「メリー・ポピンズ」の魔法を使うベビーシッターも「サウンド・オブ・ミュージック」の家庭教師も悪くはないが、もっと奔放な役柄を演じた「モダン・ミリー」や「スター!」「ビクター/ビクトリア」などがわたしの好みで、このうちひとつとなれば一九二0年代のフラッパー役の魅力を採って「モダン・ミリー」としよう。
といったところで、以下にわたしのミュージカル映画ベストテンを年代順に並べておきます。
・「四十二番街」(1933年)
・「トップハット」(1935年)
・「有頂天時代」(1936年)
・「イースター・パレード」(1948年)
・「雨に唄えば」(1952年)
・「バンドワゴン」(1953年)
・「魅惑の巴里」(1957年)
・「ウエストサイド物語」(1961年)
・「モダン・ミリー」(1967年)
・「シカゴ」(2002年)

(このシカゴのスーパーでは一日何回かピアノ演奏があり、このときはWhen You Wish Upon A Star(星に願いを)が弾かれていました。)