「サバービコン 仮面を被った街」

一九五0年代、アメリカンドリームを絵に描いたような街サバービコンに暮らすロッジ家に、ある日強盗が押し入り、これをきっかけに一家の生活は大きく変わる。ときをおなじくしてこれまで皆無だった黒人の家族が引っ越してきて、かれらを追放しようとする機運が高まり、街の雰囲気も激変する。
こんななかロッジ家の幼い息子ニッキー(ノア・ジュブ)は母(ジュリアン・ムーア)を喪った直後に、図らずも父(マット・デイモン)と母の妹(ジュリアン・ムーア二役)の不可解で、秘密めいた生態を目にする。くわえてあの強盗犯や母の死に不審な点があるとして保険会社の調査員(オスカー・アイザック)が家に出入りするようになる。
街では黒人の家族に危害がくわえられ、大規模な暴動へと発展する。

ある犯罪が混乱を巻き起こし、引き続く混乱が騒動を拡大再生産する。当時のカラーグラビアにあるようなきらびやかな街がどす黒い心模様に包まれてゆく展開はB級のパルプマガジンを思わせる。
監督はジョージ・クルーニー、脚本は同監督とジョエルとイーサンのコーエン兄弟、グラント・ヘスロフの共作。ベテランの投手が得意の変化球であざやかに決めた感があり、その決め球には奇妙さと苦味と黒い笑いが巧みにブレンドされている。
ないものねだりになるけれど、五十年代のニュータウンを舞台にした作品だから、監督の伯母さまローズマリー・クルーニーの当時のヒット曲〈come on-a my house〉を流していただいたならニヤリとする機会がもうひとつ増えただろう。ちなみに同監督は「コンフェッション」でローズマリー・クルーニーの歌う「ショーほど素敵な商売はない」を用いている。
(五月七日TOHOシネマズ日比谷)