「欲望のバージニア」

禁酒法時代のアメリカを描いた映画にはシカゴやニューヨークを舞台にしたギャングものが多い。これに対し、ジョン・ヒルコート監督「欲望のバージニア」はめずらしく地方の密造一家を採りあげている。
ボンデュラント家の三兄弟はバージニア州において密造酒ビジネスで名をとどろかせた実在の人物で、アル・カポネに代表される都会的ギャングとは好対照の洗練とは無縁の無骨な無法者は西部劇の男がそのままシフトした感じ。当時の地方の世相や風俗が実証的に描かれているようでこの点でも興味深い。

お熱いのがお好き」の冒頭、シカゴのもぐり酒場のシーンがあり「スィート・ジョージア・ブラウン」の曲で踊り子たちが踊っていたが、この映画のもぐり酒場はお色気などまったく混じらないお酒専一の場所だ。荒々しさが剥き出しになりやすい気風らしく、酒の密造という目的を邪魔する者は官憲であっても対峙し、力による排除を辞さない。偏執的なチャーリー特別取締官の配置はそれを見越した人事だったのだろう。トム・ハーディゲイリー・オールドマン、ガイ・ビアースなどキャストの妙も含めて見応えのある一篇だった。
それにしても禁酒法というおかしな法律をよく作ったものですねえ。
ジョン・ウェインが来日したとき、健康の秘訣を聞かれ「いいウイスキーを毎晩飲むことです」とユーモアたっぷりに答えたという。いかにもこの人らしい豪快であっけらかんとした応答で、こういうスターを輩出する国が禁酒法という愚挙をやらかすのだから世の中わからない。
今宵もジョン・ウェインに倣って「いいウイスキー」を飲もうじゃありませんか。
(七月二十五日、丸の内TOEI)