はなし塚

本法寺の「はなし塚」に禁演落語として葬られたのは女郎買い、酒飲み、不道徳といった時局にふさわしくないと認められた五十三席で、噺家たちは敗戦後の昭和二十一年九月三十日本寺で催された「落語祭」を機にこの禁を解いた。
不思議かつ興味深いのは古今亭志ん生の名演で知られる「お直し」が禁演リストに入っていないことだ。歳を重ねてお茶を引く日が多くなった花魁と、店の男衆が男女の仲になる。色町の法度を犯した二人だったが親切な主人の計らいで夫婦となり、「おばさん」と「ぎゅう」としてはたらかせてもらう。やがて暮らしもすこし楽になると、夫が博打に狂うようになり、果ては女房も店にいられなくなる。窮した夫は妻に懇願し、妻は最下層の女郎として客を引く。
公序良俗という基準からすれば引っかからないのがおかしいほどだが、志ん生は禁演のもうひとつ裏街道をあゆんでいたのかもしれない。