「天才作家の妻 40年目の真実」

 ノーベル文学賞の候補に何度かあがっていたジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)がようやく念願の受賞者に決まり、妻のジョーン(グレン・クローズ)と息子で作家のデビッド(マックス・アイアンズ)を伴い授賞式が行われるストックホルムを訪れる。

 その機内でずいぶん厚顔、無神経な男がキャッスルマン夫妻に近づいてくる。男はナサニエル・ボーンという記者(クリスチャン・スレイター)で、ジョゼフについてゴースト・ライターの存在を疑っている。

 ナサニエル記者はジョーンの学生時代の習作を出身大学に出向いて調査していて、その才能を高く評価していた。また同じ大学の教員でジョーンの指導にあたっていた若き日のジョゼフの作品には冴えがなく、ところがジョーンとの結婚を機に突然輝きを見せるようになった。

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 かくて記者は夫婦の秘密をジョーンと息子マックスに直接あたって探り出そうと試みる。

 秘密の外枠は早々に明らかになる。女流作家が冷遇されていた時代、ジョーンはみずから作家になるのを断念し、ジョゼフの影となってその成功を支えてきた。しかし発想、ストーリーテリング、構成、文章、編集などでどのような分業が行われたのか、その具体は二人しか知らない。

 そこにノーベル賞受賞という「事件」が勃発する。名誉は二人に与えられるべきだと思っても、現実にフラッシュを浴びるのは夫であり、その脇で、四十年のあいだ秘密を抱えてきた妻の心は揺れる。「事件」の起こした旋風が秘密の蓋を吹き飛ばそうとしているところにナサニエルの探索の手がおよぶ。

 「事件」は文学作品をめぐる夫婦の秘密とともに、作家の息子と出産を控えた娘を含むキャッスルマン家が「ハウス・オブ・カード」のような脆さを秘めていることを露わにしようとしていた。

 カードでつくられた家は崩れてしまうのか。一級のサスペンス作品にして愛、名誉、屈辱、憤怒、相互利用と相互依存などが複雑に絡む夫婦の物語だ。

 グレン・クローズの顔と名前をインプットしたのは一九八七年の「危険な情事」だったが、そのときはストーカーの悪女が似合いのクセ球をもった女優としか見ていなかったから、この人の映画に接するたびにわが眼力の至らなさを思う。

 もちろん今回も演技派女優として遺憾なく実力を発揮していて、彼女を別格として、他の役者陣のなかでは狡猾と嫌味の記者を演じたクリスチャン・スレイターがスパイスを利かせている。また若き日のジョーンを演じたアニー・スタークはグレン・クローズのじつの娘さんの由。

 ノーベル賞授賞式の演出やお作法がちょっとした見どころとなっている。

(二月四日角川シネマ有楽町