「64-ロクヨン-後編」

前編は時効が目前に迫る平成十四年の被害者家族および関係者の現在とこれまでの軌跡や警察内部の軋轢、警察と報道機関との捻じれた関係が眼目になっていたが後篇はいよいよ犯罪の解明に重心を移す。
前編以上にぐいぐいと引っ張られた。やはりミステリーの醍醐味は謎解きにある。

前編で発生した誘拐事件で犯人は「サトウ」と名乗り、身代金二千万円を用意してスーツケースに入れ、父親に車で運ばせるよう指示した。それは明らかに昭和六十四年に起きた少女誘拐事件(通称ロクヨン)の模倣だった。誰が、何をもくろんでいるのか。ここで前編のドラマと新しい誘拐事件が密接に絡み合う。
ラストでは警務部に所属する三上広報官が古巣の刑事部に戻ったかのように捜査を進めて犯人を挙げる。この映画の公開にあわせてAXNミステリーチャンネルでテレビドラマ「64」(2015年NHK製作)の放送があった。ここでの三上広報官(ピエール瀧)には刑事部へ足を踏み入れるごとき動きはなく、三上の勤め先に対する忠誠と嘆き、家庭生活での希望と不安を擦り込んだような無言電話の響きで終わる。関心のある向きに両者の比較は一興となるだろう。
前編で三上広報官や新聞記者たちの感情表現に疑問を呈したが、謎解きにあってはそれどころではないので感情失禁や制御不足のシーンはだいぶん少なくなっている。とはいえ後編においても新聞記者連中はかつての全共闘運動の闘士なみに怒鳴り、喚き散らしていた。比較してテレビ版のほうがまだ言論人らしく、社会常識をわきまえていた。
怒鳴るにしても喚くにしてもそれなりのプロセスがあってしかるべきで、映画の面々ははじめから喧嘩腰に見えたのも不満で、けして新聞記者をもっと立派にしてやって、といった気持からではない。
余談ながら、在職中ある件で某全国紙の大阪本社記者から抗議含みの電話取材があり不在の上司に代わって対応した。一応の説明をしてそれ以上のこととなると課長に直接うかがっていただきたいと言うと「課長の決定はどうせあんたらがそうするように持って行ったんだろう」と傲慢無礼な言葉が返ってきた。接した新聞記者を振り返るに、好き嫌いで言えば後者が多かった。
(六月十三日TOHOシネマズ六本木ヒルズ