「LIFE!」

ウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は雑誌「LIFE」の写真管理部で働くきまじめな男だ。思いを寄せる女性と会話もできないほどひどい臆病で、それを補うかのような空想癖があり、そこではヒーローに変身する。
ある日、ウォルターは雑誌の最終号の表紙に使用する写真のネガが見当たらないことに気づき、カメラマン(ショーン・ペン)を捜す旅に出る。「LIFE」はウェブ化が予定されていて彼もリストラの対象となっていたが、これまで写真の管理に手落ちはなかったという自負がそのままにしておくのを許さなかった。
「オールドファン」であるわたしの唯一最大の関心は「虹を摑む男」でダニー・ケイが演じたあのウォルター・ミティを製作・監督・主演のベン・スティラーが現代にどんなふうによみがえらせたのかの一点で、なんとスクリーンにはネガを求めてグリーンランドアイスランドの広大な原野を駆けめぐり、ヒマラヤ山系を登攀するウォルターがいたのだった。それも空想ではなく現実に。その点では夢と空想からの刺激がある程度すくなくなるのはやむをえない。

こうしてウォルター・ミティはかつての「虹を摑む男」がもたらした夢の世界とコメディと冒険を引き継ぎながら、たくましいビジネスマンそしてアクションヒーローとして現代によみがえっていたのだった。
丸谷才一が『深夜の散歩』に「かつては寝ないことが女性崇拝であった。そして今は、寝ることが女性崇拝なのである」と書いて半世紀以上が経つけれど、女性関係でのウォルター・ミティは相変わらずで、愛する女性には消極的、いわば寝ないことで女性を崇拝する男だ。そんな中世の騎士ふうの心をもつ男が大冒険のあとさりげなくあこがれの女性をデイトに誘う。
いい人役のショーン・ペンと母親役のシャーリー・マクレーンの細やかな気配りそしてラストのオチが、よくできた人情噺の味わいを出している。

映画のあと行きつけの飲み屋さんで顔見知りの若い方と隣り合わせになった。
「どちらへ行かれてたんですか」
「『LIFE!』という映画を観てきたんです。ダニー・ケイの『虹を掴む男』がどんなかたちでリメイクされてるか興味があってさ」
「それって、もともとは日本の映画なんですか」
「どうして」
「だって谷啓さんでしょ」
谷啓の芸名はダニー・ケイというアメリカのコメディアンからのいただきなんだよ」
「へー、知らなかった」
上に「オールドファン」と書いた所以です。
(四月五日TOHOシネマズ日劇