中世の都市国家(2016晩秋のバルカン 其ノ三十一)


塩野七生は『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』で「少々乱暴な分析を許してもらえれば、中世ルネサンス時代の華であった都市国家は、土地所有に基盤を置かず、交易を武器に繁栄に達したことからも、量よりは質の時代の産物だったと言えないこともない」と書いている。
塩野氏が指摘する中世都市国家の特質はヴェネツィアを念頭に置いたものであるがラグサ共和国(ドブロヴニク)にもあてはまる。アドリア海の良港を存分に活かしたドブロヴニクはバルカンとイタリアとの交易で栄え、くわえて後背地のセルビアボスニアの鉱山を多数所有していた。
柴宜弘『図説バルカンの歴史』には「イタリアとバルカンという二つの世界に生き続けたドブロヴニクはオスマン帝国だけでなく、そのもとで暮らすバルカンの人々にとっても、『西欧世界への窓』としての役割を果たし」たとあり、その世界史上の意義は大きい。