ある日、モロッコの現地のガイドさんがエト邦枝の歌った「カスバの女」を流してくれた。アルジェリア、チュニジア、モロッコを歌詞に配した日本の流行歌は若い人たちに意外な感をもたらしていた。この曲は多くの歌手が歌っているが、エト邦枝のオリジナル・ヴァージョンとちあきなおみのカヴァーが頽廃と衰残の表現において別格である。(と思っていたところさいきん藤圭子がコンサートで歌ったいるのを知り、この三人をわが「カスバの女」の三幅対とした)
アルジェリア、チュニジア、モロッコという北アフリカの地をわたしはヨーロッパの延長、より精確に言えばこれらの地にヨーロッパの場末、吹き溜まりとしての魅力を感じていた。永井荷風が玉ノ井に美を見たように。
それには「カスバの女」や「モロッコ」「望郷」「カサブランカ」といった映画の影響がある。「カスバの女」になじみのない若い人はこのような弊害から免れているだろう。