瞬間日記抄(其ノ十三)

ヒューマントラストシネマ有楽町で「アリス・クリードの失踪」を観る。誘拐犯の二人組ヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)は刑務所で知り合った仲だ。中年のヴィックが綿密な誘拐計画を練り、若いダニーが恰好の標的を見つけた。それが富豪の娘アリス・クリードジェマ・アータートン)だった。


誘拐は成功し、二人組はアリスの父親に多額の金を要求する。じつはダニーとアリスとは恋人同士だ。ダニーはアリスの父が富豪で、娘との関係がよくないのを見て、彼女を誘拐の対象としたのだ。もちろんヴィックは二人が恋仲なのを知らず、アリスも誘拐犯の一人が自身の恋人とは知る由もない。
ヴィックの外出中、アリスは覆面の誘拐犯に抵抗を試み、面食らったダニーは思わず覆面を脱ぎ、自分の正体をバラしてしまう。外から戻ったヴィックはダニーとアリスの言動に不自然さを感じたものの決定的な疑いとなる証拠は得られなかった。犯人たちは身代金を奪取したあとの生活を夢見ている。こちらも深い仲だ。
身代金の受渡しの日。アリスを移送しようとしてヴィックはベッドに、ダニーとアリスのあいだで何かが起こった、その決定的な証拠を見つける。疑心暗鬼に陥った誘拐犯。脱出を試みようとするアリス。生き残りを賭けた戦いに身代金の争奪戦が絡み、三人は激しい戦いに突っ込んで行
く。


登場するのはヴィック、ダニー、アリスの三人。ちょっとした行為やセリフが意味を持ち、物語を二転三転させる。サスペンスフルな映画だ。おのずと観客は濃密な緊張の百分間を過ごすことになる。監督はイギリスの新鋭監督J・ブレイクソン。本作がデビュー作。今後の活動に注目しよう。


この日、古書展を覗こうと御茶ノ水へ回り、聖橋口へ出たところ There Will Never Be Another Youのメロディが。明治大学の学生サークルが東日本大震災支援のカンパ活動を行っていて、明大OBのジャズバンドが賛助出演しているのだった。後期高齢者が三人いる明大一の高齢者バンド、通称年金楽隊だとか。
正式名は聞き洩らしたがアルトサックス、ヴァイブラフォン、ギター、ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションのセプテット編成。アルトとヴァイブの絡むメロディ・ラインが琴線に触れる。演奏はもとより年齢を重ねたアマチュアジャズメンがかっこいいのだ。楽器の出来る男って羨ましいな。

三十分余にわたるJust Friends、All The Things You Are 、On Green Dolphin Street、Poincina等の演奏。素敵な午後のジャズタイムを過ごさせていただきました。そしてラストナンバーがOn A Slow Boat To China。スローボートの名を冠する当ブログとしてはまことにうれしく、はいっ!しっかりカンパしてまいりました。

On Green Dolphin Streetのときは、オッ、ちょいとむつかしい曲だよと思ったが、これよりAll The Things You Areのイントロの部分がやりにくかったようで、一度失敗してやり直した。担当のアルトの方が、ここ、むつかしいんですよとおっしゃっていた。言われてみて、なるほどなと思った。

帰宅して余韻にひたろうと、グラスを手にしながらコールマン・ホーキンスのAll The Things You Areを手始めにチャーリー・パーカーのJust Friends、キース・ジャレットのPoincina、デューク・ジョーダンのOn Green Dolphin Streetなどを聴く。仕上げはビル・チャーラップのピアノでOn A Slow Boat To China。