富嶽眺望

先日電子ブック(Kindle)なるものを買った。衝動買いといういつもの悪い癖だが結果はめずらしく吉と出た。正直なところあんなもので本が読めるだろうかと思っていたけれど、いざ使ってみてたちまち虜になった。もちろんこれにはテキストを提供して下さっている青空文庫の功績が大きい。国民の知的財産の提供は国家的事業として行われてよいところをボランティアで提供してくれている。その活動に敬意と感謝を申し上げたい。
散歩のときいつでも荷風の『日和下駄』や岩本素白の随筆を携行できたらいいのにと思っていたのが可能になった!日暮里の富士見坂から富嶽を眺め、コートからKindleを出して岩本素白の散歩随筆の一節に眼を遣ると、そこに「東京市中には殆ど高層建築というものがなく、地勢によっては何処からでも富士も筑波も見通しで、分けても北の筑波おろしが身に沁みたのである」(「こがらしー南駅余情」)というかつての東京がある。