ヴェローナの城壁(伊太利亜旅行 其ノ五十七)


井上究一郎『幾夜寝覚』に著者が訳したジャン・グルニエ『孤島』のなかのヴェローナに言及した部分が引かれている。
ヴェローナ、この町は閉ざされていてはいりこめない。『ロミオとジュリエット』が、ヴェネチアではなく、ヴェローナで起こるのは、それだけ理由がそろっている。/季節は四月か五月だった。路地がまがっている角のところで、ジャスミンとリラの強い匂いが私の上にふりかかってきた。壁面に隠れていて、花は私には見えなかった。自分が愛する花をそんなにひた隠しに隠して閉じこめている人たちを、私はどんなに理解したことだろう!愛の情熱は、そのまわりに要塞を望む。そのとき私は、あらゆるものを美しくする秘密をあがめた。そうした秘密がなければ幸福はないのだ。」
ロミオとジュリエットの町の城壁をこうして語るフランスの哲学者、作家の思索と表現にわたしは驚嘆するばかりだ。