ロシアを憎む

ロナルド・レーガン大統領がソ連を公然と「悪の帝国」と断じたのを思えば現職のアメリカ大統領はいささか迫力に欠ける。

失礼ながらバイデン大統領を優れた政治家とは評価しない。就任早々、アフガニスタンからの自国民の引き上げや現地協力者の脱出で大チョンボをやらかしたり、ロシアのウクライナ侵攻を前にわざわざアメリカは派兵しないと言ってみたり。せめて核や原発に波及するなら重大な決意で臨むくらいのことは言明すべきではなかったか。

それはともかくロシアのウクライナ侵略で、自分にこれほど憎しみのエネルギーが残っていたかと驚いている。人格円満になり、市井でつつましく暮らす老爺が久しく覚えなかった感情のたかぶり、そしてこれからの人生、憎しみの感情はプーチンのロシアに傾注させて生きようと決めた。一部は中国が台湾に侵攻したときと北朝鮮がわが国に戦争を仕掛けてきた際に残しておかなければならないが、ま、そうなればそのときで、いまを生きよう。

と、考えていたところ九月三十日未明ニューヨークにあるロシア領事館の壁に赤い塗料が撒かれているのが見つかった。ウクライナ侵攻への抗議とおぼしい。そんなことせず、言論で闘うべきだと頭は言っているけど、心はその気持よくわかると囁いていて、ロシアが不愉快になるのならよいじゃないかとアナーキーな気分が覆っている。

今後の人生、憎しみの感情はプーチンのロシアに向けると決めた途端の赤い塗料事件であった。

また先日はニュースで、ロシアのバレー団が来日して公演を行ったと知り、この時期にわざわざロシアからバレー団を呼ぶ興行屋がいるかと驚き、呆れた。

政治、軍事と文化、芸術とは異なるという議論があるのは知っているけれどいくら何でも許容範囲がある。わたしの感覚ではいまロシアが行っている蛮行と、日本国内でのロシアバレー団の興行は相容れない。

ならば許容範囲はどこらあたりをいうか。現在ロシアはウクライナの民間人を殺し、発電所をはじめ多くの生活インフラを破壊している。少くともこうした蛮行がなければロシアのバレー団もありかとは思うが、現状で心の赴くままをいえばロシア人の入国禁止を望みたい。バレー団を経由して敵を利することがあってはならない。

子供のころ、上杉謙信武田信玄に塩を送った故事を知った。信玄の領土、甲斐の国は海から隔たり、そのため塩の供給を東海道の北条氏に頼っていた。ところが北条氏が信玄の勢力の弱体化を図り、塩の供給を中止した。信玄の窮状を知った敵方の謙信は「我、公と争う所は弓箭にありて、米塩にあらず。請う、いまより以て塩を我が国に取られ候へ」と書状を送った。この真逆にプーチンがいる。