ドナルド・キーンさんの長生きの秘訣

日本をこよなく愛した文学者ドナルド・キーンさんは東日本大震災を機に、それまでのニューヨークと東京に半年交替で住む生活から日本永住を決意し、日本国籍を取得した。心不全により亡くなったのは二0一九年二月二十四日、九十六歳だった。

キーンさんの眼に、総じて米国の高齢者のほうが日本の高齢者より元気と映っていた。百歳近くまで元気だった方の観察だから重みがある。

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最晩年の著書『東京下町日記』(東京新聞出版局)にキーンさんは「私は米国人、日本人といったくくりで類型化すべきではないと思ってはいるが、おしなべて米国の方が高齢者は元気だ。独立心が旺盛で子どもに頼るのを嫌い、一人暮らしを楽しむ術を知っている人が多いからだろう。それには見習うべきところがある」と書いている。先達を見習おうではないか。

同書に「健康診断で数値を言われても、それが喜ぶべきか、悲しむべきか分からない。運動は心掛けていない。食事も栄養のバランスは考えずに、食べたい物を食べている」と書いたときが九十二歳、講演会で「何でそんなに元気なのですか」と問われて「健康にいい」という話には耳を傾けず、何も気にしないことですと答えている。

折よく「文藝春秋」七月号に「あなたの治療薬は大丈夫か?こんなクスリにご用心」という特集があり、ひとわたり読んでみた。わたしは服用している治療薬はない。ならば健康ですか、と問われてYESと答える自信もない。そもそも健康診断が嫌いで退職後は受診していないから答えようがない。健康診断未受診のため手遅れになったのであれば甘受する覚悟はできている。

在職中は法定最低限の検査はしたがそれ以上はしなかった。退職してからは症状があれば診察していただきさいわいクスリで済んでいる。

そうそう例外があって、先年脳についてMRIその他の検査をした。このときは某大学病院の事務方の知り合いが、認知症の研究データがほしいと広く声をかけていてわたしにも要請があった。検査はいやだからしないと口にしかけたところ、一日一万円といわれて言葉を呑み込んだ。検査は嫌いだがお金には弱い根性なしだ。

感染症予防のマスクに米国人はどうしてうるさく反発するのか、変わった国だなと思ったこともあった。けれどわたしの健康診断への対応も似たり寄ったりではないかと考えて、まぁそんななものかと納得した。

美味しいものを食べ、うまい酒を飲み、健康への気遣いはほどほどに。