「今屁虎」

永井荷風は『断腸亭日乗』昭和十六年三月二十四日の記事で、ヒトラーに「猅虎」の漢字をあてた。中国語ではふつう「希特勒」(xitela)とするが、わたしは荷風の感情を込めた表記が好き。

そこでプーチンである。中国語では「普京」(pujing)だが、これではつまらない。そういえば田中角栄が首相になった当時、今太閤ともてはやされていた。豊臣秀吉が低い身分から立身出世してついには太閤となったように田中角栄も貧しいなかから首相の地位を射止めた。これにならって現代のヒトラーであるプーチンは「今猅虎」とすればよいわけだ。それとも「今屁虎」がよいかな。

ネットにはウラジミール・プーチンを「裏地見る腐沈」とした方がいて大いに共感した。中国語辞書を引くとなぐるの撲の発音がpu、茎がjingなので「撲茎」、プーチンすなわちペニスを殴るとなる。でもこんな中国語談義より「今屁虎」のほうがいいな。

 

先日ジョギングの途中で信号待ちしていたところ、何人かの小学生たちがいて、じゃあ悪役の名前はプーチンにしよう、ってなことを言っていた。わが日本の教育、いい線いってるじゃないか。その子供たちの一人になったつもりで、いじめの問題を世界情勢に見立てて作文してみた。

《三か月ほどまえから「今屁虎」くんが「憂苦」くんの態度が気に入らないと怒り、とうとうひどいいじめをはじめました。殴る蹴るどころかピストルをぶっ放したりしているのです。

あまりのひどさに「今屁虎」くんと肩を並べる一方のボス「米鈍」くんが「憂苦」くんを助けようと乗り出しました。「米鈍」くんは「憂苦」くんにナイフをあたえて、これで「今屁虎」と一発喧嘩をしてこいと言ったのです。

「今屁虎」くんは手下も多く、「憂苦」とその手勢などすぐに倒せると思っていたのですが、意外にもナイフを持った「憂苦」くんにはだいぶん手こずっているようで喧嘩はなかなか終わりません。

それにしてもどうして「米鈍」くんは「憂苦」くんにピストルを貸してやらないのでしょう、不思議でなりません。それに「米鈍」くんはいじめを繰り返す「今屁虎」くんに直接向き合い、そんなことをしてはいけないとたしなめたりもしないのです。「米鈍」くんが言うのには、直接「今屁虎」と向き合うと大喧嘩になるから影響が大きすぎるのだそうです。これではピストルを持った「今屁虎」くんにナイフの「憂苦」くんが向かって行っても勝敗の結果は明らかでしょう。》

 

ナイフとピストルについては「文藝春秋」本年五月号所載、藤原正彦「父の手拭い」に「アメリカでは最タカ派議員さえもウクライナへの戦闘機供与に反対している。誰もが核攻撃をほのめかす狂気のプーチンと事を構えたくないからだ」とあったのを踏まえている。ほんとうですか。目を疑ったな。米国はびびりながら援助してるのか。それではロシアに勝てない。それともウクライナは人間の盾か!?

米国、ドイツ、日本その他を問わずそれぞれに国益があり、ロシア、プーチンとの距離は異なる。しかし真剣に勝つ気持がなければ藤原先生のいうように戦火はアジアにも飛び「核攻撃をほのめかしさえすれば台湾や尖閣を手に入れられる、と習近平が勘違い」してしまう。そうならないよう「プーチンの侵攻を破滅的大失敗に終わらせねばならない」。