芸能人の不祥事

新井浩文が強制性交容疑で逮捕されたのは二月一日のことで、映画についていえば六月に公開が予定されていた「台風家族」は延期に、おなじく年内公開予定だった「善悪の屑」は公開中止と決まった。前者では脇を固める一人として出演していて、どう処理するのだろう。また後者は林遣都とのダブル主演という役の重さから公開できないと判断したようだ。わたしの好きな「百円の恋」も今後、劇場ではともかくテレビでの放送はむつかしくなった。

米国では、人気のテレビドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」で主役を務めていたケヴィン・スペイシーの未成年男子へのセクシャル・ハラスメント疑惑が明らかになり、製作会社Netflixはスペイシーを起用した「ハウス・オブ・カード」の製作は行わないと発表した。

日米ともに不祥事を起こした役者への対応はさほどの違いはないと判断してよさそうだが、その関連で、ハリウッドで長年にわたり女優など多数の女性に対しセクシャル・ハラスメント、性的暴行を行っていた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのことが浮かんだ。

ワインスタインは二0一八年五月に逮捕されているのだが、そのあとプロデュース作品を放映中止にしたという話は聞かない。調べたところでは二月十一日にNHKBSが「シカゴ」を放送している。なにしろたくさんの話題作に関わっているから新井浩文とおなじ扱いをしていては「ロード・オブ・ザ・リング」のシリーズなんかもだめになってしまうが、そこまではなさそうだ。おそらく米国でも同様だろう。

放送するなと言っているのではない。不祥事を起こした役者の映像はだめだが、「ワインスタイン効果」「MeToo運動」で明らかになったセクハラ、レイプを繰り返していた人物がプロデュースした映画は放送できる、つまり、画面に出なければよいのか、釈然としないのである。

そうしたところへ三月十二日、ピエール瀧がコカイン使用の容疑で逮捕され、所属事務所や放送局は公演中止、ラジオ、テレビ番組の打ち切りや差し替え、降板、代役をたてての撮り直しなどの対応に追われた。

例外は東映作品「麻雀放浪記2020」で、ピエール瀧の出演するシーンであってもノーカットで予定通り公開すると、東映の多田憲之代表取締役社長と白石和彌監督が明言した。

多田社長は、かねてよりみんなが総力をあげて作った作品を一律ボツにすることには疑問を感じていたが、いざ当事者になると悩みは大きかったと述べ、白石監督は、ピエール瀧の行為は許されることではないが、作品に罪はなく、上映できないのはあくまで特例であってほしいと訴えた。

劇場のばあい、ことの経緯や公開と判断した根拠をしっかり示し、それで納得してお金を払って見てやろうという観客に対する上映はあってよいのではないかとわたしは考えるが、いずれにしても分業の世の中で、とりあえずプロデューサー、監督、主役に端役の役者たちに限っても、どこかで歯車が狂い、不祥事が出来すると、映画会社とテレビ局は反社会的行為をした人物の処遇以上に、作品の扱いに頭を痛めているようである。 

「一律ボツ」ならば話は簡単だが、他方に「作品に罪はなく、上映できないのはあくまで特例であってほしい」とのご意見もある。そのあいだのどこかに着地点を見出すのは、濃霧のなかで車を運転しながら目的地を決めるのに似ている。