義理とふんどしを欠く覚悟、できてます。

 「私の理性は曲げられたり折られたりするようには仕込まれてはおらぬ。そうされるのは私の膝である」。モンテーニュ『エセー』より。

 三月三日の東京マラソンで、35、6キロあたりから膝に痛みが生じて難渋してしまった。曲げると痛く、階段の上り下りにも痛みが伴った。

 日本語で、膝は人間関係のありようを示す。親しい間柄では膝を交え、崩し、相手に賛同、感心した際には膝を打つ。できればそうはしたくないものだが敗北したときは膝を屈する。フランス語では膝と人間関係はどうなっているのだろう。いずれにせよモンテーニュの膝が羨ましい。

 膝痛で走るまねごとをするより、歩いたほうがタイム的にはよかったのかもしれないが、意地の筋金、度胸の良さを大事にする者としてはそうはできない。

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 こうして十日間なじみの接骨院でマッサージをしていただき、十七日の新宿〜青梅かち歩き大会ではまあまあのタイムでフィニッシュできた。

 ランニングとウォーキングとでは体重の膝にかかる度合がまったく異なるから、七十歳近くなると走り込みも大切だが、これまで以上に筋トレが重要になる。まこと、老骨とはよくいったもので、そこをしっかりしないとわたしの場合、これからのフルマラソンはない。しっかりやろうぜ、ご同輩。 

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 週刊誌で、栗原心愛(みあ)ちゃん(十歳)が両親に虐待され、殺された記事を読みはじめたところ、怒りで読み進めず、思わず舌打ちしていた。

 父親からの虐待をアンケートに書いて学校に提出したあと、児童相談所は心愛ちゃんを一時保護していたにもかかわらず、二か月後には帰宅させ、そのあと一度の家庭訪問もしていない。これでは大人たちに見捨てられたとして過言ではない。

 児相についてはよく知らないが、どれほど専門的な職員がいるのだろう。行政職員が一片の辞令で行くのでは心もとないかぎりで、ひとつの課題として人事のあり方を検討すべきではないか。

 児相の職員についてWikipediaには「都道府県では土木の用地交渉や生活保護ケースワーカーなど、利害調整や相談に関係する業務に関しては伝統的に専門職員ではなく、一般の行政職員で対応することが多いことから、専門職の仕事と認識されていない場合も少なくない」「児童虐待などの相談に関しても、本来的には専門職任用を行うべきであるが、実際には一般行政職を児童福祉司に任用している自治体が少なくない(中略)一般の行政職員の中には保健福祉とは関係のない部署から人事異動により初めて異動してくるケースも多い」とある。

 児相の専門職とされる人たちが「実際には一般行政職を児童福祉司に任用している自治体が少なくない」のである。

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 この十年のあいだでわたしが読んだ新作小説の最高作はローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』(高橋啓訳、東京創元社)だ。

さきごろ公開された「ナチス 第三の男」は本書を原作としていて大いに期待したけれど、結果は失望だった。否定的な評価やことがらは書かないに越したことはないのだが今回はやむをえない。それだけ期待が大きかった。

 『HHhH プラハ、1942年』は史実の究明に加え、歴史小説のありかたや方法論に及ぶ斬新、スタイリッシュな意欲作だった。しかし、映画は凡庸で、どうして本書を原作としたのか、その意味が見えなかった。失敗作であっても原作の精神が活かされてあればと思うけれど、その点でも残念だった。

 脚本陣に原作者の名前が見えていないのをせめてものなぐさめとしておこう。                

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 値上げラッシュではないか。その割には報道がおとなしいと思うのはわたしだけだろうか。先日スターバックスの値上げがあったところに、今度はTOHOシネマズが六月から料金を値上げすると発表した。どちらも親しくさせてもらっているので辛い。この先には消費税上げが待っている。

 収入増加の見込みのない年金生活者は節約に努めるほかないが、家計の見直しを図るよい機会としよう。ケチは紳士のたしなみ、いざとなれば義理もふんどしも欠く覚悟はできている。ケチゲーム、ファイトだ!

 そういえば昨年末に、新天皇即位で元号が変わるのを機に年賀状のやりとりをやめる「年賀状じまい」をする高齢者が増えたという記事を読んだ。「平成最後となる本年をもちまして、年始のごあいさつを失礼させていただきます」というわけだ。

 わたしはすでに退職した際に賀状はメールとした。年賀状をやめてまで人付き合いをスリムにしたいとは思わないが、金遣いはすこしでもスリムにしなければと考えてのメール賀状である。

 話は戻るが、TOHOシネマズというプライスリーダーが値上げするとなると、映画業界全体の値上げは避けられないだろう。そこで、節約を考えた。わたしは漫画をほとんど読まない。通読したのは滝田ゆう『寺島町綺譚』くらいで、漫画を読まないからかどうかはともかくアニメーション映画にはさほどのこだわりはない。ファンタジー、SFも同様だ。

 それでも評判のよい作品には接してきたが、値上げとなると、ここらあたりから切らなければなるまい。つい先日「スパイダーマン スパイダーバース」を観て、映像技術には感嘆したが値上げののちも追っかけるほどの気は起こらなかった。よくもわるくもリアリズム系だからジブリもアメコミもテレビで十分だ。鑑賞料金値上げに即応する練習として、評判のよい「ダンボ」と「バンブルビー」はパスだ。

 そうしたところへ図書館から、アンソニーホロヴィッツカササギ殺人事件』の貸し出し準備が整ったとのお知らせメールが届いた。じつは早く読みたくて、順番待ちは止して購入しようか、どうしようか迷っているうちに、待てば海路の日和となった。

 本好きの年金生活者の図書館への依存度は高まるばかりだ。

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 高知県警の巡査長が二0一五年十二月、高知市内の飲食店勤務の女性と知り合い、聞き出した家族の車の情報などを警察内部のシステムで不正に照会し、住所を調査してからストーカー行為を繰り返し、県警はストーカー規制法に基づき警告を出していたが、二月十五日に書類送検し、当人は依願退職した、との報道があった。

 信じられない事案だ。二0一五年十二月に女性と知り合い、書類送検されたのが先月、そのあいだ昨年八月には二度、女性の住む集合住宅の窓ガラスに石を投げて割ったほか、十二月には女性宅の玄関ドアの鍵穴とのぞき穴に接着剤を流し入れて壊したという。つまり、警察官の身分を保ったまま行為におよんでいるからひどい話で、しかも県警本部はストーカー規制法に基づき警告を出して、それ以上の措置はしていない。

 警察官の職責からして警告で済ませてよいものだろうか。しかも家族の車の情報などを聞き出し、警察内部のシステムで照会し、住所を調査したというのだから、警察内部のシステムの不正使用、目的外使用はあきらかであるにもかかわらず処分は行っていない。

 そうして県警はこれまで公表しなかった理由について女性の住所等を知るための「システムの使用は勤務中の行為だが、私的に調べたことで公務ではない」としているのだが、どんくさい日本のわたしはどう考えてもこの理屈がわからない。                  

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シャボン玉ホリデー」「光子の窓」「若い季節」少し年代が下がって「バラエティ テレビファソラシド」。いずれもわたしが好きだったテレビ番組だ。子供のころからバラエティ番組が好きで、ドラマはほとんど見なかった。NHKの朝ドラ、大河ドラマとはいっさい無縁である。

 物語を追っかけるのが苦手で、退職してから海外のミステリー番組を見るようになったが、名探偵ポアロミス・マープルでも作品によってはよく理解できない。ベネディクト・カンパーバッチのモダンなホームズものは複雑で断念した。

 バラエティ番組が好きなのも、ドラマが苦手の反面なのかもしれない。読書ではストーリーを追うのにさほど難渋しないものの、ときにスランプに襲われると物語がうっとうしくなる。

 いまは読書のスランプで、原因はわからない。一年に一度か二度、本を手にするのがいやになる。こういうときは晩酌をしながらかつてのラグビーの名勝負を見たり、古い歌謡曲(じゃないと口ずさめない)を楽しむ。 

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 三月二十三日、土曜日にテレビ観戦したスーパーラグビーサンウルブズvsライオンズは残念ながら24-37でサンウルブズの負け。

 翌日、気になって毎日、朝日、東京各紙の報道を見たが、毎日はそれなりに大きく扱ってくれていたけれど他の二紙は小さく、日本でワールドカップが行われる年に、これでは心許ない気は否めなかった。

 日本のチームの負け試合の記事はあまり喜ばれないとしてもワールドカップに向けて日本代表の強化を企図したサンウルブズについては負け試合への苦言も含めもう少し何とかならないものか。そのサンウルブズだが、来年2020年でスーパーラグビーから除外と決まった。日本代表の強化が漂流してしまう予感。

 サンウルブズの除外はスーパーラグビーの企画運営機構と日本側との金銭問題や競技力の格差、地理的な事情による南アの選手の負担等の結果とされるが日本協会も残留に向けた努力はしていなかったようだ。

 この問題について日本協会はこれまで、いま、何が問題になっているのかをまったくアナウンスしていないから寝耳に水だった。困った人達だ。

(三月三十日、サンウルブズはアウエーでオーストラリアの強豪チームワラターズに31-29で勝利した。スーパーラグビーからの除外が決まったあとのはじめての試合での快挙だ。)

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 三月二十六日、萩原健一が亡くなった。一九五0年生まれ、享年六十八歳。

 わたしが高校生のとき、ショーケンはザ・テンプターズリードボーカルを務めるスターだった。棲む世界が違うと年齢も別世界のような感じがしていたが、自分とおなじ年齢だったと訃報ではじめて知った。ご冥福をお祈りします。

 テレビドラマの「太陽にほえろ」も「前略おふくろ様」も見たことはなく、その代わりといってはなんだがWikipediaのフィルモグラフィにある「八つ墓村」「影武者」「誘拐報道」「恋文」「激動の1750日」「居酒屋ゆうれい」はすべて鑑賞済みだ。

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 上の出演作リストに記載のない、岸恵子と共演した「約束」はこれまで四、五回は見た。調べてみると一九七二年(昭和四十七年)三月二十九日に公開されていて、大学の春休みで帰郷しており、退屈ですることもないから映画でも行くかと足を運んで見たのがこの作品で、暇つぶしに映画でも、なんて思ったことが恥ずかしくなるほど、哀切感のこもる名品だった。