聖ロブロ大聖堂の鐘楼で(2016晩秋のバルカン 其ノ四十)


一九九七年、アドリア海に浮かぶ要塞の島は古都トロギールとして世界遺産に登録された。ディオクレティアヌス宮殿のあるスプリトから西へ三十キロ足らず、日帰りのできる人気の観光スポットだ。この街のランドマークが聖ロブロ大聖堂の鐘楼で、ここから紺碧のアドリア海と赤褐色の家並みが一望できる。
鐘楼にのぼると十人ほどの中国の若者がいた。大学名は聞き漏らしたが上海の大学生だった。一九七0年代に二度訪中経験のあるわたしはかれらと話をするうちに、中国が豊かになったのを実感というか体感した。貧しい時代を見ているからよけいに感じるのである。
経済指標や高層ビルの光景で中国経済の実態は把握できても実感、体感とはほど遠いが、大学生のこうした姿を見ると経済成長と豊かさが迫ってくる。ヨーロッパ旅行ではあまりないことだがしばし中国語でやりとりをした。