「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」

二0一四年、米国留学への条件となる大学進学適性試験(SAT)で、予備校主導のもと中国と韓国の学生多数によるカンニング事件が発覚した。そしてこれに注目したタイの映画人が事件を素材に製作した「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」は犯罪サスペンス劇として、タイの高校生の青春学園映画として、またカンニングを通して浮かび上がる社会派作品としてなどなど多様な読み方ができる傑作となった。
監督は一九八一年バンコク生まれのナウタット・プーンピリヤ(脚本にも参加)で、わたしははじめて知る名前だが、この一作で目が離せない人としてインプットした。調べてみるとCMと音楽ビデオでキャリアを積んだあと、長編デビュー作「Countdown」(二0一二年、スリリングなホラー映画との由)がいきなりアカデミー賞外国語映画賞のタイ代表に選ばれた俊英で、スタイリッシュな映像や編集からは才気縦横ぶりがうかがわれた。

特待奨学生として進学校に転入学を許可された女子高生リンが定期テストで、友人のグレースを一種のブロックサイン(具体は映画館でご確認あれ)で手助けしたことから、グレースの彼氏パットが、試験でリンが解答をサインで送り、代金をもらうというビジネスを持ちかける。これにリンは応じ、もうひとり彼女と並ぶ秀才男子バンクが参画する。
リンは離婚歴のある高校教師の父に育てられた。バンクは母のクリーニング店を手伝いながら通学する苦学生だ。この売り手側にたいし買い手をまとめる頭目のパットは父が米国の大学を出た富裕層の御曹司、グレースは印刷所を経営する家のお嬢さんだ。
こうして家庭的に恵まれず、経済的にも苦しい秀才二人と裕福な家庭の凡才二人の才能とカネとのトレードが成立し、やがて売り上げの増大とともに市場は学園内から世界規模へと拡大する。パットやグレースたちがアメリカの大学に留学するための世界統一試験(STIC)に挑戦するのだ。
STICは世界各国で行われる。不正に対する目も厳しい。この網の目をどうかいくぐるか。企みは成功するのか。北半球のタイの高校生が南半球の某国を巻き込んでの一大カンニング作戦がはじまる。
(九月二十三日新宿武蔵野館