「空飛ぶタイヤ」

走行中の運送会社のトラックから突然タイヤが外れて、歩道を幼子といっしょにあるいていた主婦に当たり、死亡させてしまう。車輛を製造したホープ自動車の調査で事故を起こしたトラックは整備不良とされ、運送会社は激しい非難にさらされるとともに倒産の危機に直面する。
運送会社の社長赤松徳郎(長瀬智也)は整備に不備はなかったと確信しているが、そのことで被害者家族から、死者を出しながら責任を回避していると厳しい視線を浴びせられる。そうしたなか赤松は、ホープ自動車製のトラックで死者こそ出していないものの似たケースがあったのを知りメーカーに再調査を要求するが窓口である沢田悠太(ディーン・フジオカ)はけんもほろろの対応で取り上げてくれない。
いっぽうでホープ自動車の少数の社員やメインバンクで同自動車への融資を担当する井崎一亮(高橋一生)は、今回の出来事は事故ではなく、欠陥を放置してリコールを回避した事件なのかもしれないとの可能性を視野に入れて、トラックの構造自体の欠陥を検討してみるべきだと考えているが社内体制はそうした問題視を許さない。埒のあかない状態に業を煮やした赤松はみずから調査に乗り出す。

タイヤはどうして外れて飛んだのか。原因究明、ビッグビジネスと中小の企業のあり方、職業人それぞれの立場から生じる相剋を組み合わせたストーリーテリングはじつに魅力的で、タイヤの飛んだ車輛を製造した自動車メーカーの上層部の動きが、偶然ながらアメリカンフットボールのとんでもないタックルを機にとりざたされている日大のコンプライアンスの問題に通じていたのは原作者、池井戸潤ならびにこの映画のスタッフの社会観察の成果だろう。
超高速!参勤交代」シリーズの本木克英監督の気を衒うことなく、淡々粛々とした語り口に好感をもった。機会があればwowowが製作したテレビドラマ版もみてみたい。
現代日本の文学事情に昏くて、池井戸氏は名前だけ知る作家だが、この映画で原作を読んでみたくなり、さっそく本作ならびに『オレたちバブル入行組』など数冊を注文した。半沢直樹のドラマの評判は聞き及んでいても、いずれの局で放送されているのかさえ知らず、まずは小説をとおしておつきあいをしてみよう。
そうそう、エンドロールで歌われているのはこの映画のためにサザンオールスターズが書き下ろした新曲だと、あとで知った。こうしてわたしのような視野の狭く、どんくさい者にとって映画は現代の潮流を知る窓である。
(六月十九日TOHOシネマズ上野)