「悲情城市」再説(2019初夏台湾 其ノ十九)


大陸からやって来た国民政府の台湾統治は、日本の支配を脱した台湾がこれからどういった方向に向かえばよいかを選択する機会を奪ったことを意味する。日本の敗戦からの四年間、つまり「悲情城市」の描いた期間はそうした機会が失われてゆく過程だった。
映画の前半には日本人の引き揚げシーンがある。八月十五日が植民地支配からの解放であるのはまちがいないが、個人レベルでは日本と台湾に引き裂かれる悲しみを抱いた人もいた。日本との愛憎の度合はおなじ中国でも大陸と台湾ではずいぶんと異なる。
一九四七年二月二十八日台北で台湾人(本省人)と大陸系中国人(外省人)との大規模な抗争が発生し、台湾全土に広がった。この二・二八事件はその後タブーとされてきたが一九八八年李登輝の総統就任のもとで「解禁」された。「悲情城市」はこの事件をはじめて描いた作品だった。