「悲情城市」(2015初夏台湾 其ノ十八)


「あなたがこれまでみた最高のハリウッド映画は?」なんて質問されても困る。日本映画についても同様だ。ただし台湾の映画となれば話は別で、答えは決まっている。それほど台湾映画に接しているわけではないのを承知の上で言うのだけれど、わたしのベストは侯孝賢監督「悲情城市」だ。
一九八九年の作品だから四半世紀以上が経つが、このかんにあっても最高作であることに変わりはなく、順位をつける気はないけれど、自分がこれまでみた映画のなかでも相当高位にある映画である。
悲情城市」は一九四五年八月十五日昭和天皇の「玉音放送」にはじまり、四九年末大陸で敗北した国民政府が台湾に渡り台北を臨時首都としたところで終わる。この四年のあいだに林という一族の四人兄弟が嘗めた人生の転変が描かれる。政治に翻弄された台湾とそこに生きる人々の人生を見つめた侯孝賢の視線の分析なしに台湾の理解はないように思う。