忠烈祠で(2015初夏台湾 其ノ十一)


辛亥革命清朝を倒し、中華民国臨時大総統となった孫文は台湾では国家の父「国父」と呼ばれている。中華人民共和国でもその評価は高く、将来、大陸と台湾がひとつになったときは孫文が新国家を代表する人物となるかもしれない。
半藤一利『歴史のくずかご』に孫文の興味深い逸話がある。戦前、上海の黄浦公園に「犬と支那人、入るべからず」の立札があったという話はよく知られているが半藤氏が依頼した上海在住ジャーナリストの調査結果によると、当時の公園の規則で、西洋人の使用人を除き、中国人は入れない、犬も自転車もだめ、ということだったらしい。
そこで立札は「外国人専用公園。ただし、外国人であっても犬の散歩および自転車での乗り入れはお断り」というような意味のことが書かれてあったのではなかったかと半藤氏は推測している。ところが孫文は演説で「犬と中国人は入るべからず」としっかり述べている。半藤氏の推測が正しければ孫文ナショナリズムを鼓吹する天才だ。