夢二の墓


先日池袋で用を済ませたあと雑司ヶ谷に廻り鬼子母神と霊園を散歩した。はじめて鬼子母神に参詣したのは市川準監督「東京兄妹」にあるこの界隈の詩情ゆたかな映像に惹かれたのがきっかけだった。一九九五年の作品だからはや二十年余が過ぎ、このかん二00八年には市川監督が五十九歳で歿した。
霊園で永井荷風の墓参をしたあとあるいていると竹久夢二の墓地の標識があったので行き、はじめて手を合わせた。文京区弥生と夢二のふるさと岡山にあるふたつの夢二美術館には行ったことがあるが墓地の所在はこの日はじめて知った。
雑司ヶ谷霊園から池袋に戻り喫茶店吉川英治鳴戸秘帖』を読んでいると、阿波にはたくさんの美人がいるが、あの豊麗な、肉感的な、南国色の娘たちとは、これはまた、クッキリと趣をかえた美人、太夫鹿の子の腰帯に、裾を上げて花結びにタラリと垂れ、柳に衣装をかけたようななよやかさといったくだりがあり、夢二の描くスレンダータイプの美人を思い浮かべた。