スペイン広場(西班牙と葡萄牙 其ノ十四)


一九三八年(昭和十三年)秋から翌年の冬にかけて、作家野上弥生子はヨーロッパを旅した。大著『欧米の旅』はその記録で、なかに「スペイン日記」が収められている。
野上弥生子がスペインを訪れたのは一九三九年八月中旬のことで、マドリードには同月二十八日に入っている。ナチス・ドイツとイタリアの支援を受けたフランコが人民戦線政府を打倒し、一九三六年七月からの内戦を終わらせたのはこの年の三月だったからフランコ独裁下の初期に当たる。
「八時過、マドリドに入る。伝えられた破壊も夜目にはわからず、町は近代式の高層建築と電燈で豪華に燦然としていた。それになんと夥しい群衆だろう。暑いマドリドでは夜の散歩はなによりの享楽で、夜っぴて歩き廻るとさえいわれるが、歩道はまるでお祭であった」。
作家が見たお祭の日のような歩道は写真のスペイン広場から延びるグラン・ビア通りだったような気がする。