「ベテラン」

漫画っぽいアクションに謎解きと社会派ミステリーが加味されたオモシロ映画、と書いたところで気づいた、これはずいぶんと贅沢なエンターティメントだったのだ、と。
ベテラン刑事ドチョル(ファン・ジョンミン)は特殊強力事件を担当する特別捜査セクションの広域捜査隊に属する刑事だ。ここは五人の辣腕刑事を擁していて、なかでドチョルは突出した武闘派で、思い立つと一人でもすぐに行動に移す。上司は不安視するが実績がそれを覆している。

刑事ものだからチーム捜査に力点を置くテもあっただろうが、ドチョルの個性がそれを許さない。よい意味で荒々しい作りだ。
あるパーティーでドチョルは財閥の御曹司(ユ・アイン)テオと出会う。直後に財閥グループの会社員が自殺を図った。これにテオが絡んでいると疑う武闘派刑事は単独で捜査をはじめる。
テオはおそろしく人間の出来ていない奴で、これほどのクズは稀少価値があると思わせるくらいだからユ・アインの演技は目を瞠る。陰険な武闘派にして裏金と権力をバックとするテオは警察上層部を使嗾して捜査網をすり抜けようとする、そこに立ちはだかるドチョルと広域捜査隊。
財閥と警察権力のなれあいや汚職が絡んだ大活劇である。
やたらに感情をたれ流しているような映画は好きになれないし、そういう人も苦手だ。予告編で感情の失禁状態を見せられるとそれだけでパスに傾く。とりわけ日本映画にむやみなハイテンションは似合わないと思うのは多分に小津作品の影響なのかもしれない。ところが韓流作品については別格で、ここでは赤裸々な感情と露骨な言語の銃弾戦がよく似合う。日韓の映画をめぐるわたしの偏見はともかくとして「ベテラン」は肉食獣たちの闘いとともに感情と言語の銃弾戦に満ちている。
監督は朝鮮半島情勢を巧みに取り入れたスパイアクション「ベルリンファイル」のリュ・スンワン。
(一月三日キネカ大森)