『世界国盡』(モロッコの旅 其ノ二十六)


福沢諭吉『世界国盡』は一八六九年(明治二年)に刊行された世界地理の入門書で、その趣旨について「専ら児童婦女子の輩をして世界の形勢を解せしめ、其知識の端緒を開き、以て天下幸福の基を立んとするの微意」にあったと述べている。
福沢は本文を七五調で統一して親しみやすく、理解暗記を図るために意を用いている。その「微意」は児童婦女子のみならず国民のあいだにベストセラーとなって流布し、当時はもちろんそれ以降の多くの日本人の対外観に大きな影響を及ぼした。
「土地は広くも人少なく、少なき人も愚かにて文字をしらず技芸なく、北と東の数箇国をのぞきし外は一様に無智混沌の一世界」というのが本書の「阿非利加」(アフリカ)についての記述で、早くも福沢は列強のまなざしを注いでいる。