迷路の街(モロッコの旅 其ノ二十一)


フェズは七八九年ベルベル人ムーレイ・イドリス一世により建設された都市で、八0八年イドリス一世の息子イドリス二世はここをイドリス朝の首都とした。モロッコでいちばん古い都市で、旧市街(メディナ)は世界一複雑な迷路の街といわれている。狭い路地には民家と商店がひしめき、あふれんばかりの人々が行き来していて、噂には聞いていたが、現地に立ってみると聞きしに勝るものだった。
いまイスラム世界の複雑な現実を背景にしたテリー・ヘイズピルグリム1』を読んでおり、そこに「わたしはそのあとを追って世界の半分ほどの市場(スーク)やモスクをめぐり、アラブ国家の秘密文書庫にはいり、彼を知っているにちがいない人々の机を探しまわった」という一節があった。(山中朝晶訳)
アラブ人やベルベル人は商業地区をスークと呼ぶ。「市場」に「スーク」とルビがあるのはそのためだ。フェズのスークはエンターテイメントの世界にまことによく似合いだ。