フェズの迷路(モロッコの旅 其ノ六)

写真は皮なめし職人の工場から撮ったフェズの旧市街。
ロッコ最初のイスラム王朝の都フェズは世界一複雑な迷路の街と言われていて、入り組んだ路地をあるくうちになるほどおそるべきところだと実感した。ヴェネツィアの路地もずいぶんと複雑だったが、それでもあそこにはサン・マルコ寺院というランドマークがあり迷っても寺院の高塔をめざせばなんとかなりそうなのに対しフェズの旧市街にランドマークはなく、ひとたび迷ってしまうと出発点に戻る自信はない。
映画「望郷」で、パリで指名手配されたペペ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)がアルジェリアのカスバに潜伏しているのはわかっていながらも、フランス警察は捕えられず切歯扼腕する。外来者には曲がりくねった石畳の路地や坂道が迷路となるからだ。路地が怪奇と神秘の世界を形づくっているみたいで、「望郷」とフェズの街がわたしのなかでだんだんと重なるのだった。