「カスバの女」(モロッコの旅 其ノ五)


エト邦枝が歌う「カスバの女」(作詞:大高ひさを、作曲:久我山明)のレコードが発売されたのは1955年(昭和30
年)のことだったが、当時この名曲はさほど話題にならず、十二年後1967年に緑川アコがリバイバルヒットさせ、これでオリジナルを歌ったエト邦枝も復活した。
はじめてジュリアン・デュヴィヴィエ監督、ジャン・ギャバン主演の「望郷」を観たのは十代の終わりで、迷路のように入り組んだアルジェの街並のシーンに「カスバの女」が連想されたものだった。のちに作詞者大高ひさをがこの詞について「望郷」を下敷きにしたと語っているのを知った。
カスバの女」は零落してパリから「地の果て」アルジェリアに渡って来たフランス人の女の歌で、三番の歌詞には「明日はチュニスかモロッコか」とある。思えば「カサブランカ」や「望郷」よりも先にこの歌がアルジェリアを、チュニスを、モロッコを意識させていたわけだ。(写真はフェズの旧市街)