モロッコへのまなざし(モロッコの旅 其ノ四)

1931年(昭和六年)わが国ではじめて日本語字幕の付いた映画が公開され、大ヒットした。ジョゼフ・フォン・スタンバーグ監督、マレーネ・ディートリッヒゲーリー・クーパー主演「モロッコ」である。広大な砂漠、灼熱の太陽、フランス外人部隊に参加した好漢のアメリカ人青年、美貌の歌姫などが織りなすドラマは日本人のモロッコについてのイメージに大きな影響を及ぼした。
1942年に製作され、日本では1946年に公開された「カサブランカ」も多くの日本人にモロッコについて少なからぬ印象を与えた。
どちらもハリウッドが発した甘美な神話であり、植民地支配を受けていた当時のモロッコの実態とはなんら関係ない。それはいまとなっては自明のことがらといってよい。ならば、いまのモロッコの現実はどうかと問われると自分が答えられないのが難儀である。