「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」

第二次世界大戦下、ケンブリッジ大学の研究者アラン・チューリングは軍と諜報機関の申し出を受け、ドイツ軍が世界に誇った暗号機エニグマによる暗号の解読作業という極秘任務に従事した。
かれがめざしたのは暗号解読装置の開発製作で、発想はクロスワードパズルの解法から来ているらしい。上層部の無理解や同僚との軋轢など紆余曲折はあったがこの装置(チューリングはこれを「クリストファー」と名付けた)はエニグマを用いた暗号通信の解読に決定的な役割を果たし、やがてかれはコンピューターの概念を創造した「人工知能の父」と呼ばれる人となった。
ただしこれほどの偉業を成し遂げ、連合国軍の勝利に貢献しながら、イギリス政府はその事実を隠し続け、ようやく二00九年にブラウン首相が英国政府を代表してチューリングに謝罪した。

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」は歴史の深部にあったエニグマ暗号の解読過程を描いた第二次世界大戦秘話で、ソ連のスパイとの駆け引きというエスピオナージュの要素をふくむ過程はスリリングで興奮を覚えた。とりわけ「クリストファー」を用いた試行錯誤がつづくなか女性職員の片言隻語からヒントを得て解読に成功するシーンは印象的だ。
この映画はまた変人と言われた天才数学者チューリングの人物像とすこしもの悲しい生涯を少年期の記憶にさかのぼりつつ描いた伝記ドラマである。暗号を解読したチューリングだったが人心の解読は暗号のようには行かなかった。ほとんどコミュニケーション機能不全の彼を支え、理解してくれたのは解読チームの仲間たちだったが、かれらを繋ぐにはそのなかの女性ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)の献身的な努力があった。チューリングは彼女と婚約まで進みながら、最終的には別れてしまう。キィ・ワードは「クリストファー」、その輝きの裏にある、秘められた切なさを知ったときわたしの目はすこしうるんだ。
天才数学者の偉業と恋愛と友情、歴史秘話、エスピオナージュ、イギリス社会のありようなどを重層的に描いたモルテン・ティルドウムの演出とグレアム・ムーアのストーリーテリング(本年度アカデミー脚色賞受賞)そして伝説的な奇人チューリングを演じたベネディクト・カンパーバッチの演技のいずれも見事なことは特筆に価する。
(三月二十一日TOHOシネマズみゆき座)