隊商宿の屋上で(土耳古の旅 其ノ二十八)


高い所と見るとすぐ上りたがる人がいる。ほめられることはまずないが、わたしもその一人で、さっそくキャラバンサライの屋上に出てみた。
石田幹之助長安の春』には唐の都の車馬の往来が述べられていて、宮廷の儀仗に迎えられた外国からの賓客のきらびやかな行列や地方へ赴任する官吏、鷹を肘に載せて城東の郊野に一日の狩を楽しむ銀鞍白馬の貴公子とならんで駱駝を率いたキャラバンが点描されている。
さらに著者は長安の人たちは出遊するのを好み、春の深くなるのを待ちきれず寒梅がちらほら咲くころから春の面影を探し求めたと述べ、そうした都の各界各層にくわえ入朝する外国の使臣、日本、新羅渤海など遠国から学を修め法を求めようとやってきた学僧たち、それにカールした髪、高い鼻、紫髯緑眼の胡人の姿を添える。
高い所にいるとそんな光景が眺められるような気がしてくる。