「恋の片道切符」「君はわが運命」「ルイジアナ・ママ」「電話でキッス」「悲しき街角」「シェリー」などなどいずれも十代のはじめに聴いていまもしっかり記憶にあるアメリカン・ボップスで、ずっと聴き続けてきたとはいえないけれど、これらを歌ったアメリカと日本の歌手の面影と歌声は折にふれ思い出す。「ショーガール」での木の実ナナと細川俊之によるオールディーズのポップス・メドレーのステージでは懐かしさに涙ぐみそうになった。
ラジオを通じて知った曲がほとんどで、どちらかといえばオリジナルの歌手よりもカヴァー・ヴァージョンを歌った日本の歌手の印象が強い。そのなかでオリジナルしか思い浮かべようのないのがザ・フォー・シーズンズの「シェリー」だ。フランキー・ヴァリのトッポジージョふうハイトーンのリードヴォーカルとバックの三人のテナー、バリトン、バスのアンサンブルが絶妙で、ちょっと類のない個性を発していた。
クリント・イーストウッド監督の新作「ジャージー・ボーイズ」はこのザ・フォー・シーズンズの軌跡を描いた作品で、大ヒットした同名のブロードウェイ・ミュージカルをもとにしている。フランキーを演じるのは舞台とおなじジョン・ロイド・ヤング。ザ・フォー・シーズンズの四人に扮した役者たちが自身で奏でるザ・フォー・シーズンズの楽曲はこの映画の大きな魅力だ。
ニュージャージー州の貧しい町で生まれ育った四人の若者が成功とは無縁の如き場所から這い出るようにして歌手を目指す。天性の歌声と曲作りの才能、そして素晴らしいハーモニーはやがてザ・フォー・シーズンズというグループに実を結ぶ。
映画の前半ではかれらがトップスターの座に就く過程が、そして後半では華やかな成功の裏に隠されたメンバー間の亀裂や家庭での苦悩が描かれる。これにメンバーが観客に話しかける演出上のアイデアや「シェリー」をはじめとするヒット曲、時代の風俗模様が彩りを添える。
スターダムを駆け上がる高揚感とその後のメンバーの消長のやるせなさをわたしはこの映画で「体感」した。そしてラストの主だった登場人物総出演による夢のミュージカルのセッションでは感嘆の声を出したいほどぞくぞくした。ドラマのなかで「体感」させるほどの力をもつ映画だからこうなって不思議はない。
「市民ケーン」でケーンが踊り子たちとダンスをするシーンがあり、オーソン・ウェルズの冴えとミュージカルのたのしさを感じさせたものだったが、「ジャージー・ボーイズ」の夢のセッションもそれに通じている。
(十月六日TOHOシネマズ六本木ヒルズ)