「トロイのヘレン」(土耳古の旅 其ノ八)


トロイとスパルタの戦闘を描いた「トロイのヘレン」(1956年)でヘレンを演じたのは二0一三年に七十九歳で亡くなったロッサナ・ポデスタで、その美しさは五十年代の若者の胸を焦がしたという。わたしが彼女を知ったのは「ルパン三世」に影響を与えたといわれる名篇「黄金の七人」で、大時代なハリウッドの歴史スペクタクルと敬遠していた「トロイのヘレン」はトルコ旅行を前にしてブラッド・ピットがアキレスに扮した「トロイ」(2004年)とともにはじめて観た。
さいきん知ったのだが「トロイのヘレン」は塩野七生というローマやヴェネツィアの歴史を絵巻物の如く流麗にまた興味深く語ってくれる作家を生むきっかけをつくった。塩野さんは「あの映画を観てすぐに英訳にしてもホメロスの作品を完読し、あろうことか原文でも読みたいと、高校生の分際で古代ギリシア語に挑戦する気になったほど」だったと語っている。(『人びとのかたち』)
ハリウッドの歴史スペクタクルを馬鹿にしてはいけないんだなあ。