「ジゴロ・イン・ニューヨーク」

ブルックリンにある本屋の店主マレー(ウディ・アレン)は不況で店がうまくゆかず、思案投げ首のところへたまたま診察に行った皮膚科の医院で、レズビアンの美人の医師(シャロン・ストーン)から男を交えた3Pにあこがれていると打ち明けられる。そこで思いついたのが男娼ビジネス。
さっそく失業して花屋でアルバイトをしている友人フィオラヴァンテ(ジョン・タトゥーロ)を必死で口説いてジゴロに仕立ててビジネスはスタートする。にわか仕立ての中年ジゴロは意外にもニューヨークの裕福な夫人たちを虜にしてビジネスは好調の波に乗ったのはよかったが、彼はある日やって来たユダヤ人の未亡人アヴィガル(ヴァネッサ・パラディ)と恋に落ち、そこへ彼女を恋するストーカーまがいのユダヤ人男性(リーブ・シュレイバー)がからんで、順風満帆だったジゴロとマネージャーの行く手は一転してあやしい雲行きとなってしまう。
ジゴロとユダヤ人女性がピュアな恋に落ちていくところの男女の機微がいい。そして純愛のジゴロはわが恋のゆくえに気をもみながら大仕事である3Pに臨むのだった。

粋で肩の凝らない艶笑コメディをたのしんだ九十分。よい湯加減のお風呂につかっていたような気分だった。
わたしは映画を評価する尺度として肩の凝らないお気楽さをけっこう大事にしているのでこういう作品は大好きなのだが、もうひとつの艶笑という点では笑いが少し弱いかな。ジゴロとマネージャー、ジゴロと顧客との関係いずれも順調過ぎて、そのぶん誤解や行き違いから来る笑いの密度にすこし物足りなさを感じた。3Pをめぐる描写はシャロン・ストーンの役柄をもっと活かして濃いものにすると抱腹絶倒のシーンも現出したかもしれない。ないものねだりかもしれないけれど、好きなジャンルだけにいろいろ註文も多くなる。
よくわからないのがユダヤ人社会における未亡人のあり方。けっこう宗教的な規制があって、しかもそれらがどれほどにリアリティがあるのかは不明だ。と、いろいろ言ってもストーリーテリングは上手だし、ブルックリンの風景は魅力的だし、ノスタルジックな音楽も素敵だ。監督・脚本・主演のジョン・タートゥーロとウディ・アレンの協同作業を讃えよう。