ゴンドラの模型(伊太利亜旅行 其ノ四十九)


ゲーテの父は1740年にイタリアを遊歴していて、そのときもとめた美しいゴンドラの模型を大事にしていた。三十七歳のゲーテヴェネツィアを訪れたのは一七八六年九月末、このとき彼の心に父が珍重していたゴンドラの模型とともに、あるときこのゴンドラで遊んでいいよ、と言われてたいへんうれしかったことが思い出された。
ゲーテの『イタリア紀行』は日本でも共感をもって迎えられた。木下杢太郎があこがれの水都ヴェネツィアに遊んだのは一九二三年(大正十二年)で、このときの手紙には、ゴンドラの模型を買って息子に送ろうと思っているとしたためられている。
わたしもそれに倣って模型を買ったと書きたいところだが、残念ながらこれも帰国して得た知識なので次回の旅に期するほかない。いまは写真のゴンドラのマグネットをその代わりとしておこう。