「ゴンドラの唄」(伊太利亜旅行 其ノ四十五)

森鴎外訳『即興詩人』でヴェネツィアに着いたアントニオは船ばたで少年が民謡を歌うのを聞く。「朱の脣に触れよ、誰か汝(そなた)の明日猶在るを知らん。恋せよ、汝の心(むね)の猶少(わか)く、汝の血の猶熱き間に」。
以下は吉井勇作詞、中山晋平作曲の「ゴンドラの唄」。「いのちみじかし 恋せよおとめ あかきくちびる あせぬまに 熱き血潮の冷えぬまに あすの月日の ないものを」。
一読しておわかりのように「ゴンドラの唄」の歌詞は『即興詩人』を下敷きにしてつくられている。
むかし何かで「ゴンドラの唄」の詞がアンデルセンの「ベネチアのゴンドラ」にもとづくと知り、なるほどと思ったが、それまで「いのち短し」がどうしてゴンドラなのか疑問を持たなかった自分が情けなくもあった。