スペイン階段(伊太利亜旅行 其ノ三十)


ふつうより大きくてモニュメンタルな階段をイタリア語でスカリナータというそうだ。スカラ(階段)から派生したことばで、須賀敦子はあかるく乾いた音をもつこの語が「スペイン広場から見上げたところにある、あの、どこかほんのりとあたたかい色調をおびた、トラヴェルティーノ石の大階段につれもどしてくれる」と書いている。(『時のかけらたち』)
森鴎外訳『即興詩人』でスペイン広場のスカリターナは「西班牙磴(スパニアいしだん)」とされ「西班牙廣こうぢよりモンテ、ピンチヨオの上なる街に登るには高く廣き石級あり」と註釈の文言が附されている。たんに階段としなかったところに、鴎外の訳文の意図や苦心のあとが偲ばれる。
スペイン広場はいつも群衆でごったがえしていて、「ローマの休日」ではショートカットにしたアン王女がここでイタリア名産の氷菓ジェラートを食べていた。もちろんわたしも食べました。