四十五年前の大雪

東京都心では二月八日午後十一時に積雪が二十七センチに達した。これは一九六九年(昭和四十四年)三月に三十センチを観測して以来四十五年ぶりの記録的な大雪だそうだ。
かつての大雪の年にわたしは大学を受験した。三月の三十センチというのは記憶にないものの(試験を終えて帰郷していたのだろう)、二月下旬に上京した折りもたいへんな大雪で、南国生まれの高校生は道ですべって、入試の予兆じゃないかと苦笑したのをおぼえている。
文藝春秋社の幹部社員だった鷲尾洋三の著書『東京の空東京の土』に同年四月十七日にもかなりの降雪があったとある。奥様の手術で忘れられない一日となったこの日も大雪だった。一九六九年は雪の多い年だった。
大雪の年は学生運動の余波で東大と東京教育大(筑波大)の入試が見送られた。志望校ではなかったけれど両親や先生はその影響を心配していただろう。もっともこちらにはなんの怖れもなく、それどころかパリ五月革命、隣国の文化大革命、そして全共闘運動と二大学の入試中止等々、世の中の騒動はなかなかおもしろいじゃないかと哄笑したい気分だった。流行歌の歌詞にあるとおり、若かったあの頃、何も恐くなかった。
大雪の翌日、人間が出来た!?のと引き換えに蒸発してしまった入試の頃のあのタフな精神を思いながら本郷の東大キャンパス(写真)を散歩した。