メディチ家の館と庭(伊太利亜旅行 其ノ十六)

前方にイタリア式庭園が広がるメディチ家の別荘。ヴェルサイユ宮殿イタリア式庭園を見たときは壮大佳麗におどろいたが、こちらは自然というか素朴でとても親しみやすい感じがする。
メディチ家が所有していたボボリ庭園について須賀敦子は、おなじイタリア式庭園なのにベルサイユやチュイルリーとくらべると「どこかとてつもなく自由で闊達」「定規や機械で引いた線ではなくて、この国の人たちのからだに組み込まれている、立体性への自然な感覚が、この庭をつかさどっている」と述べていて、わたしもそれを実感した。
パリに留学していた須賀敦子にとってそこは知性の一面としての合理性で息が詰まりそうな場所だった。パリからイタリアへ旅行したときフィレンツェで見たボボリ公園に彼女はイタリアのたのもしい包容力を感じたという。庭園は彼女をイタリアに引き寄せた大きな契機だった。