ペッピーノの葬儀の場所で(伊太利亜旅行 其ノ七)


須賀敦子の夫ペッピーノはコルシア書店を拠点とするカトリック左派に属する著述家、編集者として文化活動に従事していた。それは「フランス革命以来、あらゆる社会制度に背をむけて、かたくなに精神主義にとじこもろうとしたカトリック教会を、もういちど現代社会、あるいは現世にくみいれようとする運動」(『コルシア書店の仲間たち』)であり、彼女もペッピーノたちの思想と活動に共鳴していた。
須賀は「お金もないのに、家具もまんぞくに揃っていないのに、本ばかり読んで、本の話ばかりしている」と夫婦の自画像をしるしている。カトリック教会当局との軋轢と緊張はあったが、二人には平和で満ち足りた日々だった。
ところが結婚して六年も満たない1967年6月3日ペッピーノが肋膜炎で急逝する。享年四十一。遺体はいったんコルシア書店に運ばれ、友人たちによるお別れの会のあと、ここサン・カルロ教会で葬儀が催された。