「タンゴ・リブレ 君を想う」

「タンゴ ガルデルの亡命」「タンゴ」「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」「タンゴ・レッスン」「伝説のマエストロたち」・・・・・・タンゴがフィーチャーされた映画はできるだけ見逃さないようにしてきた。ノスタルジックな名曲が多いうえに、ダンスシーンがスクリーンに映える。脚線美が強調されて、ちょっと猥雑、ちょっとエロティック、というわけで「タンゴ・リブレ 君を想う」(フレデリック・フォンテーヌ監督)は外せない。

フランス某地の刑務所の看守をしているJC(フランソワ・ダミアン)は趣味でダンス教室に通っている。この気弱でまじめな独身の中年男性がある日ダンス教室でアリス(アンヌ・パウリスヴィック、脚本にも参加)という中年女性と知り合いタンゴを踊る。スレンダーな肢体が素敵だ、波長も合っているとひそかに思う。
驚いたことに翌日アリスが刑務所に姿を見せた。囚人との面会にやって来たのだ。しかも二人の男と。夫(セルジ・ロペス)と愛人(ジャン・アムネッケル)の二人はおなじ事件の共犯者だった。
JCには想像もつかない世界だが、その中心にいるアリスとは離れたくない。看守は受刑者の家族と付き合ってはならないという内規もあるから関係を絶つに越したことはないけれどそんな防御網など愛の前にはひとたまりもない。
「タンゴの起源は女を手に入れる為に踊った荒くれ者の踊りさ」。
こうしてまじめ人間が奔放なアリスを求めて、タンゴのファンタジーの世界へと足を踏み入れる。
いっぽうシャバでの看守と妻のタンゴに嫉妬した夫は嫉妬と対抗心からアルゼンチン出身の囚人仲間にタンゴを習いはじめる。すると他の囚人たちもタンゴに興味を示す。塀の中の荒くれ者が女を手に入れるための踊りに無縁でいられるはずがない。やがてダンス熱が所内に広まる。看守も踊りたそう。
タンゴシーンの振り付けをマリアーノ・チョチョ・フルンボリが担当している。世界的なカリスマダンサーで、自身も出演している。囚人の一群は全員が役者で、吹き替えなしでタンゴを披露する。
こうして塀の内と外で瓢箪ならぬタンゴから出たドラマが繰り広げられる。
刑務所でのタンゴの群舞がいい。ただし男同士の変格的面白さで、女の側で踊る囚人の足さばきもお見事だが脚線美を期待してはいけない。
(十月五日ヒューマントラストシネマ有楽町)