『須賀敦子全集』


須賀敦子『ミラノ 霧の風景』は1990年に刊行されていて、そのころから気になる人でありながら読むには至らず、しかし読むときはそのすべてを読みたい人だと予感していたから2006年に河出文庫版全集が出たときに買い揃えた。
それから七年間寝かせてこのほどようやく気が熟して読みはじめた。ただし、文学の上で止みがたい思いがしたとか調べものをするうちにたどり着いたというのではなく、一笑に付されそうだけれど、イタリア旅行を前にすこし予習をしておかなければいけないという極めて単純、即物、実用からの発想にすぎない。
須賀敦子の義父、イタリア人の夫の父だった人は鉄道員でミラノの鉄道官舎に住んでいた。その家で彼女は車両の軋みを聞きながら、『失われた時を求めて』の冒頭、遠い汽車の汽笛を床の中で聞いて想像をめぐらす場面があったのを思い浮かべる。
そこのところを読んだとき、プルーストがほんのちょっぴり近づいたような気がした。『須賀敦子全集』の隣には手つかずの『失われた時を求めて』が置かれてある。