伊勢屋質店

五千円札が新渡戸稲造から樋口一葉に替わったとき、その顕彰はよいが、ずいぶんお金に苦労した人だからすこし皮肉な思いがしたものだった。
しばらくぶりに本郷菊坂をあるいた。樋口一葉はこの界隈、菊坂町で明治二十三年から二十六年にかけて、十八歳から二十一歳のころ母と妹とともに暮らした。ここにはいまも旧居跡や苦しい家計をやりくりするなかで彼女が通った伊勢屋質店がある。
万延元年にこの地で創業した質店は昭和五十七年に廃業したが往時のたたずまいがそのまま残されてあるのがありがたい。その伊勢屋質店の土蔵の外壁が新しくなっていた。関東大震災のあと一度塗りなおされたそうだが、塗りなおしはそれ以降はじめてのことなのではないかな。
内部はむかしのままだそうで、毎年一葉の命日である十一月二十三日に公開されているが、わたしはまだ機会を得ていない。