セントラルパーク(市俄古と紐育 其ノ六)

セントラルパークにはいまも観光馬車がのんびりと周遊していて眺めているだけでゆったりとした、くつろいだ気分になる。

このアメリカ最大の都市型自然公園ははじめての場所なのに、昔からよく知る公園のような気がして、それほどスクリーンではおなじみだった。永井荷風が池のほとりのベンチで恋人イデスと唇を交わした場所でもあるが、ここは映画の話題専一で行きましょう。
セットでの撮影ではあるけれど「バンドワゴン」では馬車に乗ったフレッド・アステアシド・チャリシーがここで降りて「ダンシング・イン・ザ・ダーク」を踊る。バレエとミュージカルというそれぞれ別な世界からやってきた二人のコンビネーションはそれまでしっくり行かなかったのが、セントラルパークでの「ダンシング・イン・ザ・ダーク」が信頼関係を築くきっかけとなる。ミュージカル映画史上もっともエレガントな場面だ。

ニューヨークをこの上なく美しく撮った映画のひとつウディ・アレンの「マンハッタン」ではアレンと十数歳下の恋人マリエル・ヘミングウェイが馬車に乗って公園を散策していた。アレンは『ウディ・アレンの映画術』でいろんな人から自分たちが知るニューヨークはスコセッシやスパイク・リーのそれで、あなたが描いたこの都市をわれわれは知らないと言われると語っている。この映画の撮影に臨んでアレンはわが心のニューヨークを描いていた、その思いがスコセッシやスパイク・リーのリアリズムとは異なるニューヨークを生んだ。
今回は夏の緑のセントラルパークだったけれど、そのうち紅葉、黄葉に包まれたこの公園を見てみたい。「恋人たちの予感」にあった公園の姿を実見してみたいと願っている。