シカゴとジャーナリズム(市俄古と紐育 其ノ四)

ビリー・ワイルダーにはもうひとつシカゴを舞台とする「フロント・ページ」がある。
二十年代末、禁酒法下のシカゴ。シカゴ・エグザミナー紙のトップ記者ヒルディ・ジョンソン(ジャック・レモン)は退職して恋人とともにシカゴを去ろうとしている。そこへ警官殺しで死刑判決を受けた囚人の逃亡事件が出来する。同紙デスクのウォルター・バーンズ(ウォルター・マッソー)はヒルディ・ジョンソンを取材に行かせようとして・・・・・・。
新聞記者社会を舞台にしたこの風刺コメディの原作は同名のブロードウェイのヒット舞台で、戯曲はベン・ヘクトチャールズ・マッカーサーにより執筆されている。
初演は一九二八年、映画化は三一年ルイス・マイルストン監督「犯罪都市」ついで四十年のハワード・ホークス監督『ヒズ・ガール・フライデー』そして七四年「フロント・ページ」とつづく。

上は一九二一年に創立されたシカゴ劇場。都市シカゴとともに時を刻んできた歴史的な建造物だ。「フロント・ページ」も「シカゴ」もここで上演されたのだろうと思いながら写真を撮った。
このあとブロードウェイでミュージカル「シカゴ」を観たが、映画「シカゴ」のフィナーレでレニー・ゼルウィガーロキシー・ハートとキャサリン・ゼタ=ジョーンズのヴェルマ・ケリーが歌い、踊ったのはこのシカゴ劇場だった。

この映画もはじめはモーリン・ワトキンズの舞台劇で、「フロント・ページ」が初演された一九二八年に「市俄古」(シカゴ)として映画化され、のちにボブ・フォッシーによりミュージカル化されたのはご承知の通り。「フロント・ページ」と同様マスコミの狂態の風刺があり、こうして舞台や映画のもたらすイメージからすれば、シカゴはジャーナリズムの街である。ニューヨークやワシントンではなくなぜシカゴなのか。街の個性、イメージとして狂騒や哄笑や風刺や犯罪が似つかわしいということなのか。ちなみに「スティング」や「アンタッチャブル」もシカゴを舞台としている。

ビリー・ワイルダーは「フロント・ページ」について「あのころの新聞記者は、華々しい存在だった。帽子をかぶり、レインコートを着て、肩で風を切っていたよ。同僚の記者や地元の警官たちのあいだに仲間意識があり、彼らからの情報や、暗黒街の落ちこぼれ、スパイのような連中からの情報をいつも夢中になって追っていたものだ」と語っている。(シャーロット・チャンドラー前掲書)
読むうちに新聞記者と「暗黒街の落ちこぼれ」のむすびつきは他のどの都市よりもシカゴが似合いと思えてくるのが不思議だ。