コリンヌ・リュシェール

昨年末にシネマヴェーラ渋谷で「格子なき牢獄」を観た。NHK教育テレビの世界名画劇場以来だから四半世紀ぶり、いやそれ以上かもしれない。放送からだいぶん経って主演のコリンヌ・リュシェールの薄幸の人生と、その美貌が学徒出陣世代を核として日本の若者たちの琴線に触れるものであったことを知った。
「紀元二千六百年の美貌はコリンヌ・リュシェールから!」。堀口大学亀井勝一郎東郷青児たちが彼女を讃え、河上徹太郎に至っては、その思春期の色気は、ディアナ・ダービンダニエル・ダリューの如き濁ったものとは類が違うという激しさだった。
コリンヌの父は対独協力の廉で銃殺された。彼女もナチス高官の愛人と噂され、獄中で胸を患い、釈放後の一九五0年二十九歳で亡くなった。永井荷風の口吻を真似ていえば、糾弾されるべきは口に正義人道を唱え、裏で色と欲にまみれたエライさんであり、ナチス高官の愛人、妾、二号など何ほどのこともない。
(写真は「別冊太陽 フランス女優」平凡社より)