不忍池のほとりの桜と柳


ことしの東京都心は二月まで寒さが厳しかったが三月に入ると暖かい日が続き、気象庁が東京都内で桜(ソメイヨシノ)が開花したと発表したのは十六日という早さだった。
素性法師は「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」と詠って柳と桜の重なる姿に春の錦を見た。柳の葉が茂って暗く、花が明るく咲きにおう美しい春の景色を表現するのに「柳暗花明」ということばもある。こうして古人は春の景色に柳と桜を配したが、わたしの視線は派手な部分に向かいやすいので花の満開のとき片側にある柳はどうも分が悪い。
開花が早かったぶん四月の初旬にはだいぶん花びらも散ってしまったが、しかしそうなるとおもしろいもので満開のときには分が悪かった柳が桜にそっと寄り添って両者が一体となって美しさをつくる。この日の不忍池の桜と柳はしっとりと落ち着いてほのかに愁いを含んだ春の光景を映していた。